脊椎疾患は様々であり、それに対して様々な手術が行われています。
例えば、椎間板ヘルニアに対しては椎間板摘出術を、脊柱管狭窄症に対しては腰椎後方除圧術・椎弓切除術(椎弓形成術)を、骨粗鬆症を原因とする脊椎圧迫骨折に対しては経皮的椎体形成術(BKP)が行われています。
今回は椎間板ヘルニアに対する手術に焦点をあてて、外科的手術と当院治療のセルゲル法に関して解説します。
椎間場ヘルニアとは
椎間板は、中にある髄核と、それを取り囲むような線維輪という組織により形成されています。
遺伝的要因、加齢、日常生活での負担などにより、線維輪に亀裂が生じ、髄核が外に飛び出して、椎間板が損傷してしまいます。このような状態は、椎間板ヘルニアといいます。腰部の椎間板にヘルニアが生じた場合は、腰部椎間板ヘルニアとなります。
腰部椎間板ヘルニアの場合は、腰痛、臀部や足の痛み・しびれなどの症状が発生します。神経が非常に強く押されている場合には尿や便が出にくい、漏れてしまうという症状が出ることもあります。
様々ある椎間板ヘルニアの手術
ヘルニアの手術といえば、椎間板ヘルニア摘出術や固定術などが思い浮かびます。
この二つの手術でもいろんな種類があり、他にも多くの手術があります。ここはそれぞれの手術について説明します。
椎間板摘出術
椎間板摘出術の種類がいくつかあります。
・内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(MED法)
全身麻酔にて背部を16mm程切開し、外筒管と内視鏡を挿入して、内視鏡にて突出したヘルニア部分を確認しながら切除します。筋肉の剥離が少なくて済み、術後の痛みも小さいです。また、術後の傷跡も小さく、入院期間は1~2週間程となります。
・経皮的内視鏡ヘルニア摘出術(PELD法)
椎間板ヘルニアのサイズが大きめで、疼痛もかなり強いと感じられる場合はPELD手術が行われる場合があります。局所麻酔で、背中から操作管と呼ばれる管を挿入、その管から内視鏡を通してヘルニア部分を確認しながら摘出します。切開部分が小さく、術後の傷跡も目立たず、術後の痛みが小さいです。入院期間は2~4日程度です。
ただし、椎間が狭い場合や脊柱管狭窄症、すべり症を合併している場合はPELD法を行うのが難しいと言われています。
・顕微鏡下腰椎椎間板ヘルニア摘出術(MD法)
全身麻酔にて、腰部に約2~3cmほどの皮膚切開をします。筒状の器具を使用し、顕微鏡下に脱出したヘルニアを摘出します。顕微鏡で確認しながら手術を直視下に行いますので、神経や硬膜の損傷が少ないです。切開部位の痛みはほとんどなく、出血も少なくて済み、翌日から歩行が可能です。入院期間は1~2週間程となります。
内視鏡下脊椎手術(FESS)
椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対して行われる手術です。背中を1㎝程切開し、内視鏡用外筒を通して、ヘルニアを摘出したり、ドリルを使用して狭くなった脊柱管を広げたりします。内視鏡を通すために棘突起を削ることがあります。脊柱管狭窄症に対して行う場合は靭帯を切除したり痛みに関わる神経を取り除いたりします。入院期間は3~5日が必要です。
脊椎固定術
現在行われている固定術は内視鏡下脊椎固定術で、大きく2種類があります。
・腰椎後方椎体間固定術(PLIF)
PLIFは、腰椎椎間板変性症・腰椎不安定症などの治療であり、内視鏡とX線透視装置を使用しながら椎体間を固定する手術です。全身麻酔にて、背中を2㎝程度切開して、問題となっている椎間板を取り除き、上下の椎体をチタン製のケージを入れてネジとロードで固定します。1~2週間の入院期間が必要です。
・腰椎側方椎体間固定術(XLIF)
PLIFと違って、XLIFの手術は、体の横側から行われます。術式は同じですが、皮膚の切開は3㎝程になります。側方からのアプローチのため、背中側から筋肉を展開する必要がなく、腰の筋肉への侵襲を抑えることが可能ですが、手術困難場所もありますので適応外となるケースもあります。この手術も約1~2週間の入院が必要です。
椎間板内酵素注入療法(ヘルニコア)
近年知られるようになった治療です。
椎間板内酵素注入療法は、椎間板内に酵素を含んだ薬剤を注入することで、椎間板の組成を変化させてヘルニアを消失させます。通常は1~2日の入院が必要です。
椎間板内酵素注入療法は一生に一度のみであり、再治療ができません。
当院の治療-セルゲル法
外科的手術で痛み・しびれの症状が軽減されますが、椎間板の亀裂が修復されませんので、椎間板ヘルニアの再発もあります。
当院では他の治療法では不可能であった「椎間板の修復」ができる治療―セルゲル法を行っております。
近年研究・開発されてきた先進治療方法の一つであり、エビデンスがしっかりしている治療法では最も新しい治療法です。
損傷している椎間板に亀裂を埋める薬剤を注射して、それがゲル状になってひび割れを補綴するため、根治的治療になりえます。椎間板のボリュームが減少せず、治療後に薬剤がゲル状のインプラントとして椎間板に残りますので、椎間板が温存されることが特徴です。
また、治療後は椎間板が修復できているかどうか、CTやレントゲン等で確認できます。
セルゲル法は入院が必要なく、日帰りで可能な治療です。椎間板ヘルニアだけでなく、椎間板損傷に起因する幅広い疾患に対して適用でき、また外科手術後に痛みがとれなかった方や、再発してしまった場合でも、80歳以上の高齢者でも治療を受けることができます。
椎間板ヘルニアの手術:まとめ
セルゲル法 | ヘルニコア | 脊椎固定術 | 内視鏡下脊椎手術 | 椎間板摘出術 | |
椎間板の修復 | 〇 | × | × | × | × |
椎間板の温存 | 〇 | 〇 | × | △ | △ |
麻酔 | 局所麻酔 | 局所麻酔 | 全身麻酔 | 全身麻酔 | 局所麻酔または全身麻酔 |
治療時間 | 15分程度 | 10分程度 | 1時間~1時間半 | 30分~1時間 | 1時間程度 |
創 | 1㎜以下 | 1㎜以下 | 2~3㎝ | 1㎝ | 1~3㎝ |
入院期間 | 日帰り 入院なし | 1~2日 | 1~2週間 | 3~5日 | 数日~2週間 |
保険適応 | 自由診療 | 保険診療 | 保険診療 | 保険診療 | 保険診療 |
日常生活への復帰 | 翌日 | 退院後 | 退院後 | 退院後 | 退院後 |
再発 | なし | あり | あり | あり | あり |
この記事の執筆者
整形外科医 簑輪 忠明
所属学会・資格
日本腰痛学会
日本内視鏡外科学会
日本医師会認定産業医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
セルゲル法 認定医
オゾン治療 認定医
フローレンス法 認定医