椎間板ヘルニアをはじめとする脊椎疾患に対しては様々な手術が行われます。その一つは人工椎間板置換術です。
今回は人工椎間板置換術に関して解説します。
人工椎間板置換術とは
椎間板は加齢などにより、変性してしまうものです。椎間板変性が進行すればするほど、椎間板のクッション機能が失われていき、様々な脊椎疾患(脊椎不安定症、すべり症、変形性腰椎症など)になります。
クッション機能を失った椎間板を切除して、人工のものに置き換える治療は人工椎間板置換術です。
この手術はヨーロッパで開発されて、頸椎や腰椎に対して行われています。
人工椎間板置換術の適応
人工椎間板置換術は、腰椎疾患と頸椎疾患に対して実施されています。
腰椎の人工椎間板置換術
腰椎の人工椎間板置換術は、椎間板性腰痛のある患者に適応されます。
ただし、すべり症、側弯症、脊椎不安定症、椎間関節症などのある場合は適応外となります。また、骨の質が悪い場合も手術が実施できません。*1
頸椎の人工椎間板置換術
頸椎の手術の適応も椎間板性の疼痛があり、保存療法で改善のない場合となります。
腰椎と同じく、不安定症、側弯症、骨の質が悪い場合は、人工椎間板置換術ができなく、また椎間関節症も適応外となります。*1
*1 参照元:Yahya A. Othman, Ravi Verma, Sheeraz A. Qureshi. Artificial disc replacement in spine surgery. Annals of Translational Medicine. 2019, 7.
人工椎間板置換術の流れ
人工椎間板置換術は全身麻酔下で行われます。変性してしまった椎間板を取り外した後、可動性を保持するインプラントを設置します。
腰椎の手術も頸椎の手術も前方アプローチ(体の前面=お腹・脇腹)が一般的ですが、腰椎の場合は前縦靱帯を温存するために側方アプローチ(体の側面)にて実施されることもあります。*2
*2 参照元:Yahya A. Othman, Ravi Verma, Sheeraz A. Qureshi. Artificial disc replacement in spine surgery. Annals of Translational Medicine. 2019, 7.
人工椎間板置換術の効果と問題点
人工椎間板置換術は椎間板変性症の治療として有効です。変性してしまった椎間板を人工のものに置き換えることで、疼痛の緩和、脊椎の可動性の保持が期待できます。
頸椎の人工椎間板置換術は広く実施されているのに対して、腰椎の手術は議論の余地があります。
様々な研究において、腰椎の人工椎間板置換術は9~36%の合併症発生率や4~39%の再手術率が報告されています。主な合併症は術後の腰痛や下肢痛、インプラントの移動などとされています。*3
近年は術後のインプラント脱転や破損、血管損傷、再手術などの報告が多く、腰椎の人工椎間板置換術が実施されなくなってきています。*4
*3 参照元:David J. Wen, Javad Tavakoli, Joanne L. Tipper. Lumbar Total Disc Replacements for Degenerative Disc Disease: A Systematic Review of Outcomes With a Minimum of 5 years Follow-Up. Global Spine Journal. Vol. 0(0), 2024.
*4 参考元:『平成25年度 次世代医療機器評価指標作成事業』
人工椎間板置換術が怖いという方に
人工椎間板置換術は、疼痛の緩和や脊椎の可動性の保持に有効な治療ですが、全身麻酔での手術のため、この手術が怖いと思う方も少ないでしょう。
より低侵襲な治療をご希望の方は当院のセルゲル法・フローレンス法をご検討ください。
セルゲル法
セルゲル法は損傷した椎間板を修復する治療です。
椎間板のひび割れ部分を埋める薬剤を注射し、それがゲル状になってひび割れを補綴するため、更なる椎間板の変性を防ぎ、根本的な治療となり得ます。
椎間板のボリュームが減少することがなく、治療後に薬剤がゲル状のインプラントとして椎間板に残りますので、椎間板が温存されることが特徴です。
セルゲル法は腰部の椎間板変性にも頚部の椎間板変性にも適応されます。
フローレンス法
椎間板の変性が進んで、脊柱管狭窄症、すべり症なども併発している場合は、フローレンス法が適応されます。
特殊なスペーサーを腰椎の棘突起の間に入れることで脊柱の回旋や屈曲を維持しながら、椎体の安定化を図り、脊柱管を広げて、椎間板の突出を抑えて黄色靭帯肥厚を軽減できます。狭くなっていた脊柱管が広がることにより、痛み・しびれなどの症状が解消されます。
疼痛でお悩みのある方は、是非一度当院での診察を受けることをご検討ください。
この記事の執筆者
整形外科医 簑輪 忠明
所属学会・資格
日本腰痛学会
日本内視鏡外科学会
日本医師会認定産業医
日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
セルゲル法 認定医
オゾン治療 認定医
フローレンス法 認定医