腰椎すべり症とは、腰の部分で椎骨が正常な位置からずれた状態をいいます。
2004年に発表された日本脊椎脊髄病学会の脊椎手術調査報告によると、すべり症は椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症の次に多く発症する疾患です。※1
※1 参照元:野原裕他「日本脊椎脊髄病学会脊椎手術調査報告」『日本脊椎脊髄病学会雑誌』第15巻2号、2004年。
腰椎すべり症の種類
腰椎すべり症は、腰椎変性すべり症と腰椎分離すべり症の2種類に分けられますが、先天的な要因から発症する形成不全性すべり症もあります。
形成不全性すべり症
形成不全性すべり症は、生まれつき脊椎の発育に問題があるために起こりますが、非常にまれです。
比較的若いうちから症状が出てくることがあり、腰椎の分離も伴っていることが多く、高度なすべりに進行する可能性があります。
腰椎変性すべり症
腰椎変性すべり症は、加齢とともに椎間板などが変性していき、椎間関節や椎体も変性してしまい、腰椎が正常な位置からずれて発症します。特に第4腰椎と第5腰椎の間に生じることが多いです。
腰椎分離すべり症
腰椎分離すべり症は、腰椎分離のための力学的脆弱性と長期間かけて腰椎の変性が進むことによって起こります。第5腰椎の分離症が多いため、第5腰椎とその下の仙椎の間ですべりが生じることが多いです。
腰椎すべり症の原因
すべり症は、若いころからスポーツ等をして、加齢とともに椎間板や靭帯・関節などの腰椎を固定している組織が変性を起こし、それに伴って腰椎の安定性が失われることで起こることが多いです。
最近の研究では、椎間板変性がすべり症を引き起こす要因とされております。※2
椎間板が変性することにより、背骨や椎間関節への負担がかかり、骨等が不安定となり、すべり症が引き起こされるのです。
※2 参照元:I. Akkawi, H. Zmerly. Degenerative Spondylolisthesis: A Narrative Review. Acta Biomedica, vol. 92, No.6, 2021.
腰椎すべり症の症状
軽度の腰椎すべり症では無症状であることも多く、症状が出現するようになってから検査を受けて、腰椎すべり症が進行してしまっている場合が少なくありません。
腰椎すべり症の主な症状は、腰痛、臀部や下肢の痛みとしびれです。症状の出現は、すべりの不安定性の程度、椎間あるいは分離部の変性の程度、神経圧迫の部位や程度などによります。
すべり症のよくある症状の一つは、歩行中に現れる臀部や下肢のしびれ・痛みです。少し休憩をすると再び歩けるようになる間欠性跛行が多くみられます。
変性すべり症は脊柱管狭窄症を伴うことが多く、下肢痛やしびれ、間欠性跛行、排尿障害などの狭窄症の症状がみられます。
分離すべり症の場合は、腰を後ろに反らす動作など分離部分に負荷がかかる動作で痛みが増強したり、分離部などで神経根への圧迫があると下肢の痛みやしびれなどを発生したりすることもあります。
腰椎すべり症の治療
すべり症と診断されたら、まずは保存療法で治療を行います。保存療法で症状が改善せず長期化している場合には、外科手術を提案されることが多いです。
保存療法
・薬物療法
消炎鎮痛薬や筋弛緩薬などで痛みなどの症状を軽減させます。
脊柱管狭窄によって馬尾神経が圧迫されて生じる下肢痛やしびれなどの症状は、末梢循環改善薬や神経障害性疼痛治療薬が処方され、改善を図ります。
・物理療法
電気や温熱療法で症状の出ている部位の筋肉に電気刺激を与えたり、その辺を温めたりして、症状を改善させます。
・牽引療法
縦方向に腰部を引っ張る医療機器で伸ばしたりして、痛みなどの症状の改善を図ります。
・神経ブロック療法
原因となっている神経や部位に局所麻酔薬を投与し、痛みを軽減させます。
外科的手術
保存療法を行っても改善がない場合、筋力低下がある場合、形成不全性すべり症などでは外科的手術が行われます。
手術は腰椎後方除圧術や腰椎固定術が一般的となっています。
・腰椎後方除圧術
全身麻酔にて、腰部に約3cmを切開して、顕微鏡で確認しながら椎弓などを取り除き、脊柱管を広げていきます。それで、骨が滑って神経が圧迫されている状態を改善します。
すべり症に対しては単独で行われる場合もあれば、固定術を併用する場合もあります。
・腰椎固定術
固定術は、神経を圧迫している部分を切除し、骨を移植して背骨を固定します。背中を約4.5cm切開し、症状が出ている側の椎間関節を切除して椎間板を摘出し、そこに患者本人の骨や骨バンクからの骨を移植して、上下の椎体とスクリュー、ロッドなどを使って圧着します。
すべった腰椎を固定することで、不安定となっている背骨の安定を図ることができ、さらなるすべりを防ぐことができます。
当院の治療―セルゲル法
当院では、椎間板の変性が原因であるすべり症に対してセルゲル法を行っています。
前述したように、最近の研究では椎間板変性がすべり症を引き起こす要因とされております。そのため、変性してしまった椎間板を修復しなければすべりの予防ができないと考えています。
当院では変性してしまった椎間板にゲル状の薬剤を注入して、椎間板を修復させます。椎間板のボリュームが減少することがなく温存されて、すべり症の原因となる脊椎のずれが進まないように予防できます。
従来の手術と違い、切開をしない治療ですので、術後のリスクも少ないです。
すべり症と診断されたことのある方、腰痛でお悩みの方は、是非一度当院での診察を受けることをご検討ください。