脊柱管狭窄症は背骨の中にある神経の通り道(=脊柱管)が狭くなった状態です。日本脊椎脊髄病学会の脊椎手術調査報告によると、最も多い脊椎疾患だと言われています(*1)。
*1 参照元:野原裕他「日本脊椎脊髄病学会脊椎手術調査報告」『日本脊椎脊髄病学会雑誌』第15巻2号、2004年。
脊柱管狭窄症が狭くなると、神経が圧迫され、腰から下肢まで痛みやしびれが発生します。歩く時に臀部や下肢に痛み・しびれが生じ、休むと楽になるという間欠性跛行は脊柱管狭窄症の特徴的な症状です。
症状が強ければ強いほど、手術が検討されますが、今回は各手術を受けられる年齢について解説します。
脊柱管狭窄症の外科的手術
脊柱管狭窄症の最も一般的な手術は、腰椎椎弓切除術と脊椎固定術です。
腰椎椎弓切除術
内視鏡を使用して行われる手術です。全身麻酔にて、背部を18~20mm程皮膚を切開し、内視鏡の管を通してから、椎弓の一部や肥厚した黄色靭帯を切除することにより神経の圧迫を取り除き、脊柱管を広げます。
入院期間は1週間ほどかかります。
すべり症や椎間孔狭窄症もある場合は、切除術が行われた後に固定術が必要となることがあります。
脊椎固定術
内視鏡とX線透視装置を使用して、背骨を固定する手術です。全身麻酔にて、背部の皮膚を切開し、変性した椎間板を取り除いて、腰骨から採取した骨を詰めたケージという人工物を入れて、脊椎を整形します。その後、スクリューとロッドで椎骨を固定します。
固定術は、腰椎すべり症や不安定症などを伴う場合に適応されます。
入院期間は1~2週間で長いです。
外科的手術の年齢制限
高齢だけが理由で手術が受けられないことはありません。
実際、脊柱管狭窄症は高齢の方に最も多く発生する疾患です。研究では、脊柱管狭窄症の有病率が60歳以上の方に90~100%で、70歳の方に80%とされています(*2)。そして、外科的手術も高齢の患者に多く行われています(*3)。
*2 参照元:Khalepa R.V., Klimov V.S., Rzaev J.A., Vasilenko I.I., Konev E.V., Amelina E.V. SURGICAL TREATMENT OF ELDERLY AND SENILE PATIENTS WITH DEGENERATIVE CENTRAL LUMBAR SPINAL STENOSIS. Russian Journal of Spine Surgery (Khirurgiya Pozvonochnika). 2018;15(3).
*3 参照元:Deyo, R. A., Hickam, D., Duckart, J. P., Piedra, M. Complications After Surgery for Lumbar Stenosis in a Veteran Population. Spine. 2013;38(19).
手術後の合併症
外科的手術は年齢制限がありませんが、1点留意しなければいけません。
高齢の患者は併存疾患の発生率が高く、60~73.9%とされています。併存疾患があると、術後の合併症の発生率が高くなり、回復期間も長くなるといいます(*4)。
糖尿病、呼吸困難、慢性閉塞性肺疾患、慢性疾患に伴いステロイド剤の服用は、術後の合併症のリスクを高めているのです(*5)。
また、研究では、以前の手術歴、腰椎疾患以外の入院歴、行われた手術の種類が術後の合併症に影響しているとわかっています(*6)。
下記の表でいう「致命的合併症」とは心肺停止、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓症、細菌性肺炎、誤嚥性肺炎、原因不明の肺炎、脳卒中のことであり、「創傷合併症」とは出血、血腫、漿液腫、治癒しない手術創、感染症を指します。
致命的合併症 | 創傷合併症 | |
---|---|---|
以前の手術歴 | ||
・なし | 3.0% | 1.0% |
・あり | 4.0% | 4.6% |
腰椎疾患以外の入院歴 | ||
・なし | 2.8% | 1.2% |
・あり | 3.4~5.0% | 1.3~2.4% |
行われた手術の種類 | ||
・切除術 | 2.1% | 0.9% |
・固定術(1~2か所) | 4.7% | 1.6% |
・固定術(前方後方同時、2か所以上) | 5.2% | 2.2% |
*4 参照元:Khalepa R.V., Klimov V.S. Lumbar spinal stenosis in elderly and senile patients: problem state and features of surgical treatment. Russian journal of neurosurgery. 2017;(1).
*5 参照元:Deyo, R. A., Hickam, D., Duckart, J. P., Piedra, M. Complications After Surgery for Lumbar Stenosis in a Veteran Population. Spine. 2013;38(19).
*6 参照元:Richard A. Deyo, et al. Trends, major medical complications, and charges associated with surgery for lumbar spinal stenosis in older adults. JAMA. 2010;303(13).
高齢の患者は併存疾患などがあり、全身麻酔で行われる切除術や固定術は身体の負担が大きく、これは術後の合併症の発生を高めたり、回復を遅らせる要因となります。
当院の治療
当院は、脊柱管狭窄症に対してフローレンス法とセルゲル法を行っております。
いずれも低侵襲で身体の負担が少ない施術です。脊椎固定術等の全身麻酔で行われる外科的手術を避けたい患者様にお勧めしています。
フローレンス法
フローレンス法は、脊柱管狭窄症に対して行える、リスクの少ない低侵襲治療です。
部分麻酔と鎮静下で経皮的にスペーサーを挿入して、狭くなった脊柱管を広げます。治療後は取り外しなども可能です。
Lobsterスペーサーを入れることで脊柱の回旋や屈曲を維持しながら、椎体の安定化を図り、脊柱管を広げて、椎間板の突出を抑えて黄色靭帯肥厚を軽減できます。狭くなっていた脊柱管が広がることにより、痛みが解消されます。
セルゲル法
脊柱管狭窄症は、椎間板がひび割れることで中心成分が飛び出し、その飛び出した部分が脊柱管を狭くすることで起こります。椎間板のひび割れは修復できていなければ、再度ヘルニアが発生したり、再度脊柱管が狭くなったりしてしまう可能性があります。
当院のセルゲル法では、椎間板のひび割れ部分を埋める薬剤を注射し、それがゲル状になってひび割れを補綴するため、根本的な治療を行うことができます。椎間板のボリュームが減少することがなく、治療後に薬剤がゲル状のインプラントとして椎間板に残りますので、椎間板が温存されることが特徴です。
脊柱管狭窄症と診断されたことのある方は、是非一度当院での診察を受けることをご検討ください。